不動産仲介トラブル事例38:売買不動産の浸水履歴に関し、詳細な調査を行い、かつ、買主へ正確な情報を説明すべき務に違反したとして、売主業者と仲介業者に対する損害賠償請求が認められた事例

本ブログでは、不動産業者向「令和4年度版 宅地建物取引士 講習テキスト」
記載の事例について記述します。

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紛争の内容

① 買主X(非宅建業者・個人)は、平成25年12月7日、地下1階が駐車場となっている戸建ての中古住宅(以下「本件不動産」という。)が売りに出されていることを知り、本件不動産の仲介業務を行っていたY1(宅建業者)に依頼して、本件不動産を内見した。
② Xは、本件不動産を内見した際、地下駐車場と地下玄関との間に高さ約90cmの仕切りが設置されていたことから、地下駐車場への浸水を懸念し、内見の翌日、Y1に対して、駐車場内の排水状況を調査してほしい旨依頼した。
③ 当該依頼を受け、Y1は、市役所で本件不動産につき浸水履歴があるか問い合わせたところ、市役所からは「本件不動産が所在する街区には浸水履歴がある」との回答を得た。
さらに、Y1は、本件不動産の所有者であるY2(宅建業者)に対しても浸水履歴につき問い合わせたところ、Y2からは、平成17年に発生した大雨の際にも浸水はなかったとの説明を前所有者から受けたとの回答を得た。
加えて、Y1は、地下駐車場の入口に設置された排水ポンプの動作確認作業を行い、同ポンプが正常に作動することを確認した。
④ 上記③の調査を経て、Y1は、平成25年12月9日、Xに対して「平成17年の集中豪雨の際には駐車場内に雨水の浸水はなかった」、「ポンプの動作確認もしており、問題なく正常に動いた」、「浸水被害もない状況だったが、記録的豪雨のあった平成17年以降に、浸水した場合に建物内部への水の浸入を防ぐ為に前所有者が駐車場と建物内出入口の間に仕切りを設けた」旨など回答した。
なお、Y2が作成した本件不動産の物件情報確認書(告知書)には、本件不動産の周辺環境に関する浸水等の被害の有無について「知らない」と記載されていた。
➄ 平成25年12月11日、Xは、Y1から、重要事項説明書の読み上げを受け、本件不動産の売買契約の契約書に署名押印し、同売買契約を締結した。また、その際、Y2は、本件不動産の浸水被害について、今まで浸水被害に遭っていないと説明した。
⑥ 本件不動産の売買契約の翌年、少なくとも2回、地下駐車場に雨水が流入する浸水事故が発生した。そのため、Xは、駐車していた自動車の修理費用を支払うとともに、自動式止水板を設置するための工事費用を支出した。
⑦ その後、Xが市役所に本件不動産の浸水履歴に関する個人情報開示請求を行ったところ、平成17年9月に地下駐車場にて浸水事故が発生していたことが判明した。
⑧ Xは、Y1及びY2(以下、併せて「Yら」という。)が不動産の売買契約及び仲介契約上なすべき浸水被害に関する調査を怠り、事実に反する説明を行ったために、浸水被害の存在を認識しないまま本件不動産を購入し、自動車の修理費用、止水板設置工事費用、本件不動産の評価額減少額等の損害を被ったとして、当該損害の賠償を求める訴訟を提起した。

<紛争関係図>

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各当事者の言い分

買主Xの言い分

Yらは、地下駐車場と地下玄関との間に高さ約90cmの仕切りが設置されるなど浸水が懸念されるような事情がうかがわれたにもかかわらず、過去の浸水履歴を含め、可能な調査を行い、その結果を買主であるXに事前に説明すべき義務を怠り、本件地下駐車場の浸水について説明をしなかった。
さらにYらは、本件不動産の内覧の際、浸水の心配をした原告からその調査を求められたのであるから、なおさら地下駐車場の浸水について調査を尽くすべきであったにもかかわらず、これを怠った上、浸水の事実を否定して、明らかに事実に反する説明を行った。

Yらの言い分

Y1は、本件不動産の内覧の翌日、地下駐車場の排水状況の調査と併せて、市役所に本件不動産の浸水履歴の確認調査を行った。市からは、本件不動産を含む街区内での浸水履歴が存在する旨の回答があったが、個別物件の浸水履歴の回答は拒まれた。
また、Y1は、売主であるY2に対しても事実確認を行った。Y2からは、本件不動産の浸水事故の有無は分からず、前所有者からは「過去に本件不動産が浸水被害に遭ったことは一度もない」との回答を受けているとの説明を受けた。
さらに、Y1は、地下駐車場の排水ポンプの動作確認を行い、同ポンプが正常に作動することを確認した。
以上のとおり、Y1は、原告からの浸水の懸念について、過去の浸水履歴を含めて可能な調査を行った上で、地下駐車場に浸水したことはなく、排水状況も問題ない旨を正確に説明している。

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本事例の結末

第1審判決(東京地裁平成29年2月7日判決)は、以下のように判示し、Xの請求を一部認め、Yらに損害賠償を命じた。
① 浸水事故が発生するような場所的・環境的要因からくる土地の性状は、その地域の一般的な特性として、当該土地固有の要因とはいえない場合も多い上、そのような性状は、同土地の価格形成の要因として織り込まれている場合も多いと考えられるのであるから、浸水履歴について説明義務があるというためには、浸水事故が発生する可能性について説明義務があることを基礎づける法令上の根拠や具体的事情等があり、また、そのような事態の発生可能性について、仲介業者等が情報を入手することが可能であることが必要と解される。② 本件において、Xは、内見の翌日、Y1に対して地下駐車場への雨水の流入について懸念を示しており、Y1としては、本件不動産の浸水事故に関するXの上記懸念を十分理解していた。
また、Y1は、Xからの上記指摘を受けて、実際に市役所へ問い合せ、少なくとも本件不動産所在の街区に浸水履歴があるとの回答を得ていたのであるから、本件不動産についても浸水事故発生の可能性があることを認識し得た。
さらに、地下駐車場の入口には排水ポンプが設置され、地下駐車場と建物出入口との間に仕切りが設置されるなど、地下駐車場への雨水流入に対する対策とも考えられる設備が備え付けられていた。
加えて、本件不動産の所有者であったY2は、情報開示制度を利用して本件不動産の浸水履歴を容易に入手することができた。
③ これらの事実関係に照らせば、Yらには、本件不動産の浸水履歴につき、さらなる調査をし、正確な情報を原告に説明すべき義務があったというべきである。
④ 売買契約締結に際し、被告らが、本件不動産所在の街区には浸水履歴があることを説明しなかったのみならず、前所有者の浸水事故はなかった旨の説明をそのまま信じ、本件不動産については、今まで浸水被害に遭っていないとの事実に反する説明をしたことについては、上記説明義務の違反があるといわざるを得ない。
➄ したがって、債務不履行ないし不法行為に基づき、Yらは、Xに対して、Xが支出した自動車修理費用、止水板設置費用の一部及び本件不動産の評価額低下に係る損害を賠償する義務を負う。
その後の控訴審では、控訴審判決(東京高裁平成29年7月19日判決)も第1審判決と同様にYらの調査・説明義務違反を認めたが、本件不動産の評価額低下に係る損害については、浸水防止対策がされれば地下駐車場への浸水は防げることになるとしてこれを認めなかった。また、第1審判決が認めた自動車修理費用の一部について、機器の取替等が行われたことや必要性の立証がないとしてこれを棄却した。

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本事例に学ぶこと

裁判所は、浸水事故が発生するような場所的・環境的要因からくる土地の性状について、同土地の価格形成の要因として織り込まれている場合も多いと考えられる旨を指摘した上で、仲介業者や売主が浸水履歴について説明義務を負うというためには、説明義務があることを基礎づける法令上の根拠や具体的事情等があり、また、浸水事故の発生可能性について、仲介業者等が情報を入手することが可能であることが必要と判示した。
この判示部分からは、仲介業者等が負う浸水履歴についての説明義務を合理的な範囲に限定する趣旨を読み取ることも可能である。
しかしながら、本事例においては、買主Xが浸水事故の発生可能性について懸念を示していたこと、市役所からの回答や本件不動産の状況に鑑みて浸水事故発生の可能性があることを認識し得たこと、情報開示制度を利用すれば本件不動産の浸水履歴を容易に入手することができたことなどの具体的事情に照らして、Yらに浸水履歴の説明義務があったものと判断された。
本件において、Y1は、市役所に浸水履歴を照会した際、当該街区内での浸水履歴が存在する旨の回答は得られたものの、個別物件の浸水履歴は回答を拒まれていたようである。また、Y2は、前所有者から浸水履歴を否定する回答を得ていたとのことである。しかし、そのような事情があったとしても、情報開示制度を利用して本件浸水履歴を調査することが可能である以上、これを行わずに事実に反する説明をしたことは、説明義務に違反するものと判断されたようである。
購入希望者が特に関心を示した事項については、十分な調査を行った上で慎重に回答する必要がある。本件は、特に、浸水履歴に関する調査や、これに関する説明義務について、参考となる事例である。
なお、宅地建物取引業法施行規則の改正(令和2年8月28日施行)により、宅地又は建物の取引における重要事項として、新たに水害リスクに関する説明が求められることになったため、注意が必要である。すなわち、宅地建物取引業者は、宅地又は建物の取引を行うにあたり、水防法施行規則第11条第1号の規定により当該宅地又は建物の所在する市町村が提供する図面(いわゆる水害ハザードマップ)に、当該宅地又は建物の位置が表示されているときは、当該図面における当該宅地又は建物の所在地を示して説明しなければならないこととされた(宅地建物取引業法施行規則第16条の4の3第3号の2)。かかる改正は、平成30年豪雨など各地で甚大な水害が発生したことを受けてのものであり、具体的には、宅地建物取引業者は、宅地建物の購入者等に対し、当該宅地又は建物の所在する各市町村のウェブサイトに掲載されている水害ハザードマップを印刷し、同図面上に当該宅地建物の所在地を示したものを宅地建物の購入者等に交付すること等が求められる。

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安達孝一

部署:本店

資格:宅地建物取引士、定期借地借家権プランナー、 2級ファイナンシャルプランニング技能士、 日本アンガーマネジメント協会認定アンガーマネジメントコンサルタント、 日本仲人協会 マリッジアドバイザー

日々、情熱・魂(ゲミュート)・鋼鉄の意志で生きています。

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